大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和39年(ラ)12号 決定

抗告人 沢田良子(仮名) 外一名

相手方 沢田みつえ(仮名) 外四名

主文

原審判を次のとおり変更する。

本件当事者らの被相続人亡沢田忠義の遺産について、次のとおり分割する。

1  原審判別紙(二)の物件目録記載のうち、(1)の土地五筆および(2)の建物三筆ならびに農業経営に必要な一切の農機具類を、沢田孝男、同京子、同辰男および保男の共有とし、同人らは連帯して抗告人らに対し、それぞれ金二〇万円宛、合計金四〇万円を支払うこと(原審判主文第1項と同じ)。

2  同じく(3)の建物一棟を沢田みつえの所有とし、同人は抗告人らに対し、それぞれ金四〇万円宛、合計八〇万円を支払うこと(原審判主文第2項と同じ)。

3  前二項の金員支払部分については、それぞれの支払義務者は、これを、

第1項の金員については七年間

第2項の金員については八年間

の割賦の方法により支払うことができる。

ただし、割賦支払の方法による場合においては、各支払義務者は、本裁判確定の日の属する年の一二月末日から毎年一二月末日限り、各権利者に対し

第1項の金員については金三万円(最後の年は金二万円)宛

第2項の金員については金五万円宛

を、本裁判確定の日を起算日とし、各支払の日までの残元金に対する年五分の割合による金員を付加して支払わなければならない。

4  本手続費用中、原審判において鑑定人玉田政次に支払われた旅費および鑑定料(合計金五、〇〇〇円)は、これを二分してその一を抗告人らの、その余を相手方らの各負担とし、その余の費用は、第一、二審を通じて、それぞれ支出した者の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、それぞれ別紙「抗告の趣旨」「抗告の原因」記載のとおりである。

よつて、案ずるに、本件遺産中積極財産の帰属および相手方らから申立人らへの金員支払額について原審判の裁定(原審判主文第一、二項に相当する部分)は、本件記録の検討によつて得られた各資料なかんずく玉田政次鑑定人の鑑定結果(土地家屋評価証明書)に照らして、相当であると認められるので、当裁判所もまたこれを維持し、その理由としては、原審判理由の記載をそのまま(ただし、支払方法についての説示部分を除く。)引用する。(なお、抗告人は、相続開始時に存した同年度の収穫物、その後遺産から生じた収益等につき云々するけれども、昭和三八年三月五日付および同年八月一五日付三谷調査官補作成の調査報告書、昭和三九年二月二五日付山川調査官作成の調査報告書ならびにこれら報告書作成の各資料なかんずく当麻町農業協同組合長佐々木理一作成にかかる昭和三七年一二月二一日付「調査依頼報告について」と題する回答書の記載内容等に徴すれば、原審判は抗告人主張の点も参酌した上で、積極財産の範囲を裁定したものであることが認められるから、その主張は採用できない。)

次に、各支払方法については、前掲各調査報告書を総合し、原審判別紙目録(二)(3)の建物から部屋代収入は毎月一万一、五〇〇円にのぼると認められること、同目録(二)(1)の農地の現況は水田だけで二町六反三畝に達し、その収穫力は昭和三八年において反当り六・六俵と認められ、今後もその収穫水準を維持するものと推認しうること、一方相手方沢田みつえらが、年額一〇万円以上の割賦に応じ難いとする理由の一つとして主張する多額の負債は、例えば、債権者の一人野田吉男との面接結果に関する前掲昭和三八年三月五日付調査報告書の内容に徴して必ずしもその全部を信用し難く、むしろ虚偽の負債を作為したのではないかと疑わしめる点もあること、その他諸般の事情を考慮し、年賦支払いによる場合の年数を減じて主文第3項のような支払方法によりうることとするのを適当とする。

なお、手続費用中、鑑定人に支払われた分は、申立人らと相手方とに折半して負担させるのを相当と認める。

よつて、家事審判規則一九条二項により、原審判を変更し、手続の費用については、家事審判法七条、非訟事件手続法二八条・二九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 伊藤淳吉 裁判官 臼居直道 裁判官 倉田卓次)

別紙

抗告人等の抗告の趣旨および理由

抗告の趣旨

(1) 原審判はこれを取消す。

(2) 被抗告人沢田みつえおよび沢田孝男は亡沢田忠義の相続を辞退せよ。

(3) 被抗告人沢田みつえ所有名義、被抗告人沢田辰男売買予約の左記不動産は亡沢田忠義の相続財産とする。

上川郡当麻町○○○○番の二五

宅地 六九坪

上川郡当麻町○○○○番の二六

宅地 七二坪

(4) 右土地を含む別紙目録の財産を亡沢田忠義の遺産として被抗告人沢田みつえおよび沢田孝男を除く相続人で適正に共同相続せよ。

(5) 共同相続の財産は換金して現金にて適正分配せよ。

(6) 原審判の手続に要した費用および本件手続費用は抗告人および被抗告人の均等分担とする。

との裁判を求める。

抗告の原因

1 抗告人は昭和三七年一〇月旭川家庭裁判所(同庁昭和三七年(家)第七六四号)に対し家事調停の申立をなしたが、調停が成立しなかつたので、同庁に於ては家事審判法第二四条により抗告人たる申立人の意思に反して昭和三九年三月一〇日審判をなし同月一三日抗告人に通知があつた。

2 しかるに原審判は、抗告人の申立趣旨を完全に無視し、被抗告人沢田みつえおよび沢田孝男に対し、その相続権を認め、且つ現在まで不法に保持してきたその現状を有効と認め且つ今後もその管理に委せるとある。

3 しかも、農機具の類および被相続人死亡当時既に存在したその年の収穫物等を相続財産と認めないばかりでなく、被相続人死亡後の遺産から生じた収益その他、積極、消極の利得が存在していたことを認めながら、これを故意に各不動産取得者のものと審判している。

4 又その遺産分割については各相続人間の事情(学歴およびその生前贈与分の有無)を何等考慮されていない。

5 被抗告人沢田みつえおよび沢田孝男は被相続人の生前に於て、著しく虐待を加え、且つ被相続人が結核と診断され衰弱した時に於て食事も充分に与えず、入院加療の勧告、療養指導を拒否し、それにより被相続人の入院加療の希望を阻止し、被相続人が死に近づいていくのに何等の手段を講ぜず傍観し、その死期を著しく早めせしめた疑がある。且つ両人等はその衰弱した被相続人に暴力を加え半強制的に被相続人名義の物件を(別添目録の内宅地二筆)沢田みつえの名義となした人権無視なる疑もある。かかる被抗告人沢田みつえ、沢田孝男の妻たる、子たる義務を完全に無視した非人道的なる者には被相続人の遺産を相続する権利はないものと思われる。

6 被抗告人沢田みつえは現在既に五三歳位であり原審判の二〇年の年賦分割支払は特別に抗告人に対して不利益なる審判であり相続財産は全部換金し現金に一時に分配することが至当であると考慮される。

7 よつて原審判を取消す外抗告の趣旨記載の裁判を求めるためこの抗告をする次第である。

参考

原審(旭川家裁 昭三八(家)七六四号 昭三八・三・一〇審判 認容)

申立人 沢田良子(仮名) 外一名

相手方 沢田みつえ(仮名) 外一名

参加人 沢田京子(仮名) 外二名

主文

上記当事者らの被相続人亡沢田忠義の遺産について次のとおり分割する。

1 別紙(二)物件目録記載のうち(1)の土地五筆および(2)の建物三筆ならびに農業経営に必要な一切の農機具類を、沢田孝男、同京子、同辰男および同保男の共有とし、同人らは連帯して沢田良子および沼上牧子に対し、それぞれ金二〇万円ずつ、合計金四〇万円を支払う

こと。

2 (3)の建物一筆を、沢田みつえの所有とし、同人は沢田良子および沼上牧子に対し、それぞれ金四〇万円ずつ合計金八〇万円を支払うこと。

3 第一、二項の金員支払部分については、各支払義務者はこれを、第一項の金員については一〇年間、第二項の金員については二〇年間の割賦支払の方法により支払うことができる。

ただし、割賦支払の方法による場合においては、本審判確定の日の属する年の一二月末日から毎年末日限り各権利者に対し、金二万円ずつを、本審判確定の日を起算日とし、各支払の日までの残元金に対する年五分の割合による金員を付加して支払わなければならない。

4 本件手続費用は各支出したものの負担とする。

理由

申立人らは、亡沢田忠義の相続人として、その遺産の分割を求めた。

当裁判所の審判の結果によれば、当事者らの先代亡沢田忠義は昭和三七年七月一三日死亡し、同人と別紙(一)の目録記載の続柄にある当事者らの持分は同目録記載のとおりであり、その遺産に属する不動産は別紙(二)の目録記載のとおりであることが認められる。

ところで、申立人両名は、被相続人とは、その生前から別居してそれぞれ遠隔の地に離れて独立して生計を営んでおり、従つて、当麻町における不動産によつて生活の資を得ることは考えなくてもよいから、同人らにとつては他の相続人らから金員の支払をうけることによつて遺産分割に関する清算をすませるのがもつとも適当である。

これに反して、沢田みつえとその子らは被相続人の生前同人と同居して、別紙(二)の目録のうち(1)の土地五筆を耕作し、これらの農地のうちにある同(2)の建物三筆に居住していたが、被相続人死亡ののちは沢田孝男が中心となつて、従前からの農機具等を使用して同一規模で家業をついで農業を営んでいるから適正な農業経営の規模の観点からみてもこれらの農地を建物は前記農機具等とともに孝男を中心とした京子、辰男および保男の共有としてその経営を託するのを相当とする。

また別紙(二)の目録のうち(3)の建物一筆は、別紙(三)の沢田みつえ名義の宅地二筆のうえに建てられいるが、当麻駅前の市街地の中心にあること、被相続人がその生前とくに沢田みつえのために建物の敷地を贈与していること、この建物を他に賃貸しているので賃料収入があることおよびこの建物の一部を沢田みつえおよび沢田辰男が使用していること、などの事情を考慮し、将来の使用収益その他の観点からすれば、土地の所有名義人である沢田みつえの単独所有として、その管理に委せるのを相当とする。

以上のような分割の方法によつて、別紙(二)(三)の不動産に関し、その評価額によつて不動産を取得する者が取得しない者に支払うべき金額を算出すると、沢田孝男、京子、辰男および保男は金四〇万円、沢田みつえは金八〇万円となる(ただし、端数切捨て)。

ただ、遺産に関しては、以上のほか前記若干の農機具の類が存在し、また被相続人死亡ののち遺産から生じた収益その他積極消極の利得が存在していることが窺われないでもないが、各不動産取得者が遺産の管理維持のために払つた努力のほか、さきに挙げた各事情を綜合すれば、これらは各不動産取得者のものとして差支えないから、支払うべき金額の算出に当つては、とくに変動を加えないこととする。

そこで、前記支払うべき金額については、前記の各事情を綜合して、主文のように沢田良子および沼上牧子に対しそれぞれ等分の金額を支払者の連帯責任において支払うものとし、また支払者側の支払能力その他を考慮し、主文第三項のような分割による支払方法によることも差支えないこととする。

(なお、いうまでもないことであるが、被相続人がその生前に負つていた債務は、相続人全員がその相続分に応じて負担すべきものであつて、遺産分割によつてその責を免れるものと解すべきではない。)

別紙一

当事者目録

番号 氏名   被相続人との続柄    生年月日

1 沢田みつえ  妻         明四四・七・八

2 沢田良子   先妻との間の長女  昭二・六・二二

3 沼上牧子   同右二女      昭四・七・四

4 沢田孝男   つるよとの間の長男 昭一四・九・一〇

5 沢田京子   同右長女      昭一七・五・二〇

6 沢田辰男   同右二男      昭一九・一〇・五

7 沢田保男   同右三男      昭二三・三・一二

備考一 本籍

(沼上京子紋別市元紋別○○○番地の二その他上川郡当麻町○○○番地)

備考二 住所

(沢田良子釧路市北大通○○丁目小山方その他各本籍地と同じ)

備考三 相続分

(沢田みつえ三分の一その他いずれも九分の一)

別紙二

物件目録

(1) 北海道上川郡当麻町

○○○番の一 田 七反四畝一三歩

同番の二 田 一町三反九畝二九歩

同番の三 田 六畝二七歩

○○○番の一一 田 二畝八歩

同番の一五 同 一町一反二畝一一歩

(2) 同町

中央○区所在木造亜鉛メッキ鋼板ぶき平家建住家 二三坪七合五勺

同右所在木造柾ぶき平家建風呂場 三坪七合五勺

○○○番地所在家屋番号一区六七番の二 木造草ぶき平家建納屋二二坪

(3) 同町○○○○番地の二五および同番地の二六所在

家屋番号二一区○○○番の二

木造柾ぶき二階建住宅

一階 三九坪五合

二階 二六坪五合

別紙三

物件目録

北海道上川郡当麻町○○○○番の二五 宅地 六九坪

同番の二六 宅地 七二坪

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例